東京地方裁判所 平成9年(ワ)20766号 判決
原告 榮進地所株式会社
右代表者代表取締役 志賀裕介
右訴訟代理人弁護士 山岸文雄
同 山岸哲男
同 山岸美佐子
被告 小島六郎
被告 荻原サイ
右両名訴訟代理人弁護士 新井嘉昭
同 井手大作
右訴訟復代理人弁護士 佐藤敦史
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告小島六郎は、原告に対し、別紙物件目録の一記載の各土地について、昭和四七年六月一日売買を原因として、横浜地方法務局川和出張所昭和四七年六月八日受付第壱九四壱弐号所有権移転請求権保全仮登記の本登記手続をせよ。
二 被告荻原サイは、原告に対し、別紙物件目録の一記載の各土地につき、原告が被告小島六郎との間で前項記載の本登記手続をすることを承諾せよ。
第二事案の概要
一 本件は、原告が、被告小島六郎(以下「被告小島」という。)に対し、別紙物件目録二記載の農地(以下「本件従前地」という。)について締結された被告小島を売主とし、高井嘉一郎(以下「嘉一郎」という。)を買主とする売買契約における買主の地位を嘉一郎から承継したことに基づき、本件従前地上に汚水処理施設が設置されたこと等により非農地化したと主張して、本件従前地の換地後の土地である別紙物件目録の一記載の各土地(以下「本件各土地」という。)について右売買を原因とする所有権移転請求権保全仮登記の本登記手続を求め、右売買契約の後に本件各土地について被告小島から根抵当権設定登記を経由した被告荻原サイ(以下「被告荻原」という。)に対し、右本登記手続についての承諾を求める事案である。
二 争いのない事実等
次の事実は、1を除き、当事者間に争いがなく、1は、証拠(甲一、二、一一)及び弁論の全趣旨により、認めることができる。
1 嘉一郎は、昭和四七年六月一日、被告小島との間で、本件従前地を代金一三〇〇万円で被告小島から農地として買い受ける旨の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、横浜地方法務局川和出張所昭和四七年六月八日受付第壱九四壱弐号をもって売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記(以下「本件仮登記」という。)を経由した。
2 昭和五四年五月一日、嘉一郎の死亡により、高井松之助(以下「松之助」という。)が嘉一郎の本件売買契約の買主たる地位を相続し、昭和五五年八月一日、本件仮登記の移転付記登記を経由した。
3 原告は、昭和五九年一月三一日、松之助から本件売買契約の買主たる地位を譲り受け、同年二月一日、本件仮登記の移転付記登記を経由した。
4 被告小島は、昭和五〇年一〇月一日、本件従前地について、横浜市との間で、期間三年間の約定で廃棄物の埋立てを目的とする賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約一」という。)を締結し、横浜市に対してこれを引き渡した。
5 横浜市は、昭和五六年四月一日、被告小島ほか三名との間で、本件従前地の一部及びその隣接地について、汚水処理施設の設置を目的とする期間三年間の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約二」という。)を締結し、その引渡しを受けた。
本件賃貸借契約二は、右期間の満了に伴い期間一年間の賃貸借契約として更新され、その満了後も一年ごとに更新され、現在に至っている。
現在、本件各土地の一部には、汚水処理施設が設置されている。
6 被告荻原は、本件従前地について被告小島から根抵当権の設定を受け、横浜地方法務局川和出張所昭和五六年八月三日受付第弐九九壱〇号、第弐九九壱壱号をもって根抵当権設定仮登記を経由した。
7 本件従前地は、昭和六一年二月二二日、土地改良法による換地処分により、本件各土地に換地された。
三 争点
本件の争点は、本件各土地が農地法にいう農地に該当するかどうかであり、これに関する当事者の主張は、次のとおりである。
(原告)
本件各土地については、前記のとおり、汚水処理施設の設置を目的とする賃貸借契約に基づき、横浜市の汚水処理施設が設置されており、右汚水処理施設は、埋立処分地から外部に有害な汚水が流出することを防ぐための施設であり、農業用地のための施設ではない。
被告らは、横浜市が被告小島に対し、本件各土地について、賃貸借契約終了後に本件各土地を農地に復元して返還することを約したと主張するが、横浜市は、賃貸借契約終了後に汚水処理施設を撤去し、整地をして返還することを約したにすぎず、農地に復元して返還することを約した事実はない。
(被告ら)
本件土地を含む横浜市緑区東本郷地区等の農地に横浜市の廃棄物が埋め立てられたことにより、右農地が鉄分とマンガン等に汚染されたため、排水処理の必要が生じた。そこで、横浜市は、本件賃貸借契約二を締結し、汚水処理施設を設置した。右汚水処理施設は、本件各土地等から出る浸出水の汚染度を基準値以下に低減させるための暫定的な処理施設であり、右浸出水の汚染度が基準値以下に低減されたときは、右汚水処理施設は撤去されることが予定され、横浜市は、本件各土地に覆土をした上、農地に復元して返還することを約束しているから、本件各土地は、依然として農地であり、非農地化していない。
なお、本件各土地は、農業振興地域の整備に関する法律による農業振興地域として指定され、また、本件各土地を含む付近の土地一帯は、横浜市農業専用地区設定要綱に基づく農業専用地区に指定されている。したがって、本件各土地は、限られた目的に使用することができるだけで、非農地化することはできない土地である。また、被告小島は、平成一〇年二月、本件各土地のうち、汚水処理施設が設置されていない部分に盛り土をして、きゅうり、かぼちゃ、なす、トマト、さつまいも等を耕作した。さらに、平成一二年四月、つつじの苗木を数十本植樹した。
第三争点に対する判断
一 農地法にいう農地とは、耕作の目的に供される土地をいうところ(同法二条一項)、同法の目的に照らすと、右にいう農地には、現に耕作されている土地のほか、現に耕作はされていないが、将来耕作されることが予想され、社会通念上耕作されることが可能であると認められる土地も含まれるものと解するのが相当である。
二 これを本件についてみるに、証拠(乙一ないし四の各一、二、乙五ないし一〇、一二の一ないし四、一三、一四の一、二、被告小島本人)に前記争いのない事実等及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
1 被告小島は、本件売買契約の締結後も、本件従前地を小島哲彦に耕作させており、本件各土地は、農地として耕作されていた。
2 本件賃貸借契約一には、横浜市において、廃棄物の埋立処分が完了したときは、埋立処分後の土地を農耕に適する土地で覆土し、整地して返還する旨の約定があった。
3 横浜市は、本件賃貸借契約一に基づき、本件従前地について一般廃棄物(生活ゴミ)の埋立てを行った。ところが、右埋立により、本件従前地からの浸出水が基準値以上の鉄分及びマンガンに汚染されるなど問題が生じたため、付近に排水処理施設を建設し、処理後の水を排水する必要が生じた。
4 そこで、本件従前地のうちの一部(四一七・七五平方メートル。以下「本件賃貸土地」という。)及びその隣接地について、汚水処理施設の設置を目的として本件賃貸借契約二が締結され、横浜市により、整地がされた上、汚水処理施設(以下「本件汚水処理施設」という。)が建設された。
本件従前地のうち、本件賃貸土地以外の部分(三二六平方メートル。(以下「本件使用貸借土地」という。)は、右汚水処理施設に隣接しているため、その後、横浜市と被告小島とは、本件使用貸借土地について横浜市が汚水処理施設用地として使用することを目的とする期間一年間の土地使用貸借契約(以下「本件使用貸借契約」という。)を締結した。本件土地使用貸借契約は、その後一年ごとに更新され、現在に至っている。
5 本件汚水処理施設は、埋め立て後の本件従前地(前記換地処分後は本件各土地)等から出る浸出水の汚染度を基準値に低減させるための暫定的な施設として設置されたものであり、右浸出水の汚染度が基準値以下に低減されたときは、撤去されることが予定されている。そして、本件賃貸借契約二及び本件土地使用貸借契約においては、横浜市は、汚水処理の目的を達した後は、本件汚水処理施設を撤去し、整地をした上、本件各土地を農地に復元して被告小島に返還する旨の合意がされている。
6 被告小島は、平成一〇年二月ころ、本件使用貸借土地に盛り土をして、胡瓜等の作物を栽培したことがあるが、現在は、右栽培を中断している。また、平成一二年四月ころ、つつじの苗木を植栽した。
7 本件各土地は、農業振興地域の整備に関する法律による農業振興地域として指定され、本件汚水処理施設の撤去後は、農地としての利用に供すべき土地とされている。また、本件各土地を含む付近の土地一帯は、横浜市農業専用地区設定要綱に基づく農業専用地区に指定され、横浜市では、右土地一帯を優良な農業地帯として保全するための農政施策を実施している。
三 右に認定した事実及び前記争いのない事実等によれば、本件各土地は、過去において耕作されていたものであり、現在は本件賃貸借二及び本件使用貸借に基づき本件汚水施設の用地として使用されているが、本件汚水施設は暫定的施設であって、汚水処理の目的を達した後は、撤去されることが予定され、かつ、横浜市は、賃貸借契約二及び本件土地使用貸借契約において、汚水処理の目的を達した後は本件汚水処理施設を撤去し、本件各土地を整地した上、農地に復元して被告小島に返還する旨を約束しているのであり、横浜市が地方公共団体であることをも考慮すれば、将来その履行がされることは確実であると認められる。以上の諸点に、本件各土地が農業振興地域の整備に関する法律による農業振興地域として指定され、本件汚水処理施設の撤去後は、農地としての利用に供すべき土地となっていること及び本件各土地を含む付近の土地一帯は横浜市農業専用地区設定要綱に基づく農業専用地区に指定されていることをも考え合わせると、本件各土地は、将来耕作されることが予想され、かつ、社会通念上耕作されることが可能であると認められるから、農地法にいう農地に該当するものと解するのが相当である。
第四結論
以上によれば、本件売買契約に基づく本件各土地の所有権移転の効力は、いまだ生じていないから、原告の被告らに対する請求は、いずれも理由がない。
(裁判官 柳田幸三)
物件目録
一1 所在 横浜市緑区東本郷町字西耕地
地番 七壱番壱
地目 畑
地積 参五九平方メートル
2 所在 同所
地番 七壱番弐
地目 畑
地積 参八四平方メートル
二1 所在 横浜市緑区東本郷町字西耕地
地番 八壱番
地目 畑
地積 四参六平方メートル
2 所在 同所
地番 八参番壱
地目 畑
地積 四〇〇平方メートル